ふと 歩いていて 足が止まった。
誰か 呼んでいるような気がしたから。 でも 人々が忙しそうに 足早に 通りすぎるだけ。 誰もが 知らん顔。 誰もが 知らない顔ばかり。 まるで 世界中に 誰一人 私を 知っている人が いないみたい。 突然 苦しくなって 胸を押さえて うずくまってしまった。 それでも だあれも 気づいてくれない。 ふと 胸の苦しさが なくなった。 私は そっと 顔を上げて あたりを 見回した。 | |
ああ すべての時が 止まってる。 |
|
私の 目に映る 街は 死んでいた。
さっきまで 人で溢れていた場所には 恐いほどの 静けさが 流れていた。 この 小さな街に 私だけが 立ちすくんでいる。 どうして みんな いってしまったのだろう。 私だけを 残して なぜ 去ってしまうのだろう。 それは きっと 私が 死んでいるから。 悲しくて 悲しくて 辛くて 辛くて 心が 張り裂けそうなのに それなのに 私は 死んでいる というのだろうか。 |
|
私は 歩き始める。
よろけても つまづいても 私は 歩き続ける。 この 誰もいない 虚空の街を。 歩いて 歩いて もう 足が 動かなくなるまで それでも 這うように 歩き続けて やがて──── そこの 曲がり角から ひょこっと ちっちゃな 頭が 覗かせた。 大きな クリクリ目玉の ちっちゃな男の子 恥ずかしそうに おずおずと 出てきて 私の 傍にやってきた。 その時 私の心のなかで 何かが はじけた。 あとから あとから 涙が 溢れてきて これで いいんだ これで 大丈夫 と 何故だか わかってしまった。 私は その場に 顔を 覆って しゃがみこんでしまった。 男の子は 近づいてきて 私を 抱えるように 大きく 手を広げた。 | |
その瞬間──── |
|
男の子が 私が あたりが 街が 目が 痛くなるほどに まばゆく 光 輝いた。 消えゆく 意識の中で 声が 聞こえたような 気がした。 |
|
「自分の 思う通りに 進みなさい。選ぶのは あなた自身なのだから。」 |
|
はっと 我に返ると そこは 私の 街だった。 相も変わらず 忙しそうに 人々は 歩いている。 その 人々の中に 私は 手を振る 男の子を 見つけて その子に 向かって 走りだした。 |