吟  詠



私が 死んだら
詠ってください
悲しくなく 淋しくなく
嬉しくなく 楽しくなく
その どちらでもない 詠い方で
詠ってください
押し殺した感情の
滲み出るように
そして 仄かに
希望の響きを漂わせて
詠ってください

私が 死んで
あなたが見ている星空が
科学の本に書いてあるような
星ではなく
あの ダイヤ ルビー サファイア
美しい あの宝石に
もし 見えたなら
その時 すぐに詠ってください
それは 私が
天から与えられた仕事を
行ってる時だからです
きっとあなたの詠が
私の耳にも聞こえるでしょう
そして 流れ星が
もし 流れたら
それは 私の涙だと思ってください
私が 人間だった時の
思い出を 懐かしんでいるのだと
思ってください

───同人詩誌「コスモス」1983年掲載───






吟詠ふたたび



わたしが死んで
あなたは詠ってくれた
あなたの詠があったから
わたしは生まれてきた
生まれ変わってくる

あなたの見知らぬ空のもと
わたしは額に汗して働いていた
今度生まれ変わるとしたら
どこか小さな太陽系の
三番目の惑星の
水がきれいで緑がいっぱいの
そんな夢のような場所がいい
そう願いながら辛さをたえていた

そんなわたしに
あなたの詠が聞こえてきた

わたしを導く道しるべが
あんなに遠い場所まで届いたのだ
何度も何度もそうやって
わたしはあなたの詠で
生まれ変わってくる

天から与えられた
大切な仕事を行うために
それこそ腕をふるいながら





コスモス通信


わたしの心でねむってた
色とりどりのコスモスが
目覚めて風にゆれだした
そのひとつひとつが
わたしの心をあらわしている

永いあいだ凍結していた
わたしの想いがとけていく
詩への憧憬を胸の底に押しこめて
心を閉ざして生きてきた

凍りついた花は待っていた
自分をおおう冷たい柩が
あたたかい風にさらされて
いつの日か消え失せるのを
時間をとめて待っていた
そしていま
花の時間は動きだす───

わたしの心でコスモスが
風にゆられて咲きだした

詩を捨てられなかった
幼いころから持ちつづけた
静かに息づく想いを
あきらめることができなかった
日本中に散らばってるコスモスは
今でも元気いっぱい
風に吹かれているだろうか
今でもきみたちは
わたしの音信を遠い空の下
待っているのだろうか

───同人詩誌「コスモス」に捧ぐ───

【1998/11/15日本海新聞掲載】