わかれ
─ミシェルに─



愛しい人よ おわかれです
言葉は ありきたりのもの
しかし 愛は稀有のもの
優しく滅びるに 委せましょう

わかれは お互いの悲しみ
何かが 終わってしまったのですもの
でも わたし達に とっては
それは 始まりなのです
巣立ってゆく ひな鳥のように
愛を とび立たせましょう

夕べの空に 輝いていて
人知れず 護られている
星々のように また涙のように
二人の愛を この世から消えさせましょう

あゝ・・・
滅びるがよい バラの花よ
あの夏の夜
わたしの髪に あなたがさしたバラの花よ
あなたの肩ごしに
またたいていた町の灯りよ
夜の川よ 夜風よ

ロマンティックでしたわ
三年の間 わたしは
あなたえの思慕ゆえに朗らかで
あなたゆえに わたしは歌い
花のように あどけなく
あなたゆえに 夜の静寂は わたしのものでした

あなたゆえに わたしが愛した
あらゆる有限なもの
草花 星座 朝と昼と夜 そして
互いに愛しながら褪せてゆく運命のバラと───

思いがけない 秘密であるところの
滅ぶべきものさえも
あなたゆえに わたしは受け入れたのでした

すべてが皆
あなたへの愛のために生きた一つの生命
胸の灯り 望み 夕べの語らい
時間の中で 時間の外で
すべて あなたゆえに 貴いのでした

あらゆる男性の中で ただひとり
あなたに捧げます
わたしの知った世界を
わたしの昼と夜を
わたしの花々を

かつて愛し
永遠に 愛するところの
あなたに───・・・

いま おわかれするのも
運命が盲目であるとか
御心が冷たいとか
言うためでは ありません

世界が あなたのものでも
わたしのものでも ないから
あゝ もっとも 愛しいものさえ
そうではないからなのです

愛しい人よ おわかれです
言葉は ありきたりのもの
しかし 愛は稀有のもの
優しく 滅びるに 委せましょう


冬の大阪駅。
故郷へと帰るわたし。
あなたは男友達と一緒に見送ってくれた。
動き出した汽車の窓から手を握ったまま離さないあなた。
走って走って走りつづけた別れ。

昔の汽車の窓と今の汽車の窓は
そんなふうな違いがある。


別れへ  迷妄の中でへ

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